第十三回(2019/07)「道頓堀プール」の皮算用

 大阪ミナミの道頓堀に巨大プールを浮かべる夢の計画があった。営業方針も強気だ。料金は大人ひとりが最初の1時間で2千円、以降1時間ごとに千円。年間100万人の来場者を見込み、年収33億円という皮算用だった。発案者は故人の堺屋太一。2012年1月、大阪府市統合本部会議で披露した。大阪を盛り上げる「10大名物」とし、「東京オリンピックよりも大きな経済効果を生む場所になる」と豪語した。

 道頓堀は、1612年に安井道頓が私財を注いで着工し3年後に竣工した。2015年は開削400周年になる。記念イベントとして地元商店会が提案にのった。まず準備室をつくり基本計画を発表した。そして2013年4月に吉本興行やミキハウスなどが出資し、道頓堀プールサイドアベニュー設立準備株式会社がスタートした。400周年にあわせる開業をめざした。

 テント生地の箱形プールを係留する計画である。30mほどの布函を連結し浮き材を付けて川に浮かべ、そこに約1万トンの水道水を入れる。全長は日本橋から深里橋までの東西800mあまり。沿岸の遊歩道をプールサイドに改修し、大型スクリーンやライブの舞台も設置する。グリコの看板などが並ぶ観光地だ。

 ちなみに地元紙『なんば経済新聞』がネットでアンケート調査をした。それによると、「道頓堀プールに入りますか?」との問いに、「入りたくない」とする回答が82%もあったという。ドン引きの気分がネットからも伝わる。理由は不衛生なことなどだった。

 この川は2.7kmの一級河川である。大阪市の河川課はプールの設置許可について、河川法にもとづく4条件を提示した。護岸保持・洪水時対応・水質管理という技術的な3件はクリアできた。しかし残る「関係者の了解」が難航した。観光船業への補償額で物別れになり、市は川の占用許可申請を却下した。

 計画は突然に中止された。開業予定だった2015年の初めに、準備会社が出資者にたいして断念すると伝えた。堺屋の提案から3年後だ。資金が必要額の30億円に満たず、観光船の業者との調整もつかず、長期のプール運営会社は見つからない。プール計画は当初案の800mが、途中で戎橋-太左右衛門橋間の80mに激減され、最後はゼロmで夢と消えた。