第三十二回(2021/02) なんでやねん都構想(その2)

 なぜ都構想は二度も否決されたのか。背景にどのような要因が隠れているか。投票から3ヶ月余り経って、在阪マスコミを中心にさまざまな憶測が取り沙汰されている。しかし、一週間の半分を大阪府吹田市で暮らす「半府民(?)」のわたしには、それらとは異なる情景が見える。決定的なのは、市職員たちによる面従腹背と、草の根レベルの市民たちの個別活動だ。

 まず市の選挙管理委員会の電気自動車である。賛否を分けた誘因は、このヒョウ柄の宣伝カー(写真)かもしれない。大阪おばちゃんの勝負服と見紛うようなこの車は何をしていたか。もちろん啓発活動だ。車体には「大阪市廃止・特別区設置」と書かれていた。根拠法である「大都市地域における特別区の設置に関する法律」(平成24年法律第80号)の規定だ。これが、何を問う住民投票かという具体の争点を有権者に明示した。大阪市がなくなることを強く印象付けたのが、宣伝カーの名称だ。

 前回、2015年の名称は「大阪市における特別区の設置についての住民投票」だった。根拠法のままだが、趣旨はぼんやりしていただろう。今回は宣伝カーがムードを一変させた。初回の「特別区の設置」に、「大阪市の廃止」を付け加えたのだ。なぜ2回目は名称が変わったのか。2018年5月、市の廃止を明記するよう市議会に陳情があった。当時の維新は過半数にとどかず、自民・共産・公明の賛成多数で採択された。公明はまだ反対派だった。

 これを受けて市選管は、職員からアイディアを募って「行こう!投“ヒョウ”」というキャッチコピーを決めた。総務省に確認しチェックも受けた。告示日には空前の出発式があり、8台の宣伝カーが市内を駆け廻った。選管は独立した行政委員会であり、長の指揮命令を受けない。現に市長が提案した「大阪市役所廃止」は退けられた。ちなみにわたしは「行こうぜ東京」という昔の歌を思い出した。

 さらに運動期間中に、市の財政局が都構想の基準財政需要額を試算しデータを公表した。「大阪市を4分割すると218億円のコスト増になる」とする内容であった。これを新聞が報じた。市長の決済を経ていない公表であり、直後に誤りとして撤回された。この騒動も否決の方向に働いたのではないか。

 各党の運動費は、維新がダントツの約4億円とされた。一方で自民は党本部の支援がなく、議員のカンパや党員の寄付などで5千万円が精一杯だった。資金面では勝ち目がない。前回のような党派を越えた連携も見られず、withコロナで大きな集会もなかった。しかしゲリラ的に、多様な場所で散発の運動が重ねられた。

 草の根の市民活動である。たとえば朝夕の路上でのチラシ配りのほか、街頭での演説、自治会での勉強会、市民団体による講演会、保健医療関係者の活動、大学などの研究者132名の声明と会見、市民や学生グループが主催したネット討論会、SNSなどだ。当日には投票所前で看板を掲げて立つ活動さえあった。結果として草の根の活動が市の存続を支え、草の根の意志が大政党の都合に勝った。

(次に続く)