苛立ちがつのる地制調の「合併答申」

 現代行政研HPのツールバーにある「顧問sense」欄はどなたの発案でしょうか。思わず苦笑してしまいました。しかし考えてみると、昨今の国政ではあまりに非常識な事柄が頻発していますので、国民のコモン・センスに照らしてその非を問うことが時宜にかなっているのかもしれない、と思いなおしました。

 そんなことの一例として、総理大臣の諮問機関である地方制度調査会による「市町村合併についての今後の対応方策に関する答申」(2019年10月30日)があります。現在の第32次地制調は、その前年7月初めに発足してから、ほぼ1年後の2019年7月末日に「2040年頃から逆算し顕在化する地方行政の諸課題とその対応方策についての中間報告」を出しております。この奇妙な表題からして頭を傾げる方もおられましょうが、それは、2017年秋に総務省自治行政局に設置された「自治体戦略2040構想研究会」の2次にわたる報告書(2018年4月および第32次地制調発足の直前)を承けて、安倍総理から「人口減少が深刻化し高齢者人口がピークを迎える2040年頃から、圏域における地方公共団体の協力関係、公・共・私のベストミックスその他の必要な行政体制のあり方について、調査審議を求める」との諮問があったからでした。

 地制調委員の任期は2年ですので、東京オリンピック開催の前には第32次地制調の答申が取りまとめられることになります。地方自治関係者の多くは、研究者たちも含めて、いったいどんな答申になるのかと気をもんでいたところへ、なんと本答申に先がけて上記の「合併答申」があったものですから、それこそ、えっと驚いたのです。

 「平成の大合併」のことを想起すればお分かりのとおり、市町村合併は非常に大きなエネルギーを要する大問題です。個々の市町村にとって、具体的な合併問題が持ち上がりますと、ほとんどその問題にかかりきりになってしまいます。総理の地制調諮問に例示されている「圏域」内の協力関係や公共私関係の見直しどころではないでしょう。それなのにどうして「合併答申」なのか。その取りまとめは、今次地制調の本答申に向けた「中間報告」から3か月後のことでしたが、「中間報告」の本文では市町村合併にかんすることなど一言も触れられていません。

 今次地制調が前提に置いたいわゆる「バックキャスティング」の手法とどのような折り合いをつけるのか、どうにも合点がいきません。苛立ちがつのるばかりです。