第十九回(2020/1) 癒しの京都タワー

 木曜の夜に新大阪から東京に戻る新幹線に乗る。じきに一息つく癒しの光景が現れる。闇のなかに白い地肌で凛としてそびえる京都タワーだ。世界で最も高い無鉄骨の塔である。鉄骨を一切使わずに、円筒を溶接でつなぐ斬新な工法だ。131mの円筒は台座のタワービルを貫いて立つという。町家の瓦葺きを波に見立てて、海のない京の市街を照らす灯台をイメージして作られた。チェスのビショップにも似た巨大な塔に癒されるのは、その優美さのためか。

 開業は1964年12月28日だから、すでに半世紀余を過ぎる。当初は「千年王城の地」にそぐわないとの批判もあった。「東寺の塔より高いものは建てない」不文律を犯し、歴史的な景観を破壊する愚行ともされた。しかし、今や京都に欠かせないランドマークになっている。偶然に乗り合わせた四葉のタクシーでは、ドライバーが車中で多彩なライトアップ写真を披露したほどだ。京都タワーのゆるキャラは、40周年記念に作られた「たわわちゃん」である。

 設計は建築家の山田守だ。山田は同じ年の9月に、東京の北の丸公園に日本武道館を建設している。西のタワーと東の武道館をむすぶのが東海道新幹線であり、その時期に東京オリンピックが開催された。これらは日本の戦後復興のシンボルであった。山田は青年期に「分離派建築会」を立ち上げ、滑らかな曲線美を重視した。お茶の水の聖橋にその面影がある。京都タワーにも当然、過去の伝統からの「分離」志向が秘められていた。物議は織り込み済みなのだ。

 関西圏では、まず1956年に大阪の通天閣が再建された。ついで京都タワーが開業する前年の1963年に、神戸のポートタワーが完成した。こうして京阪神の三都にあいついで魅力的な塔が咲き競ったのだ。ちなみにわたしが訪れた夜に、近隣にある関西電力の社屋前で、脱原発の市民集会が開かれていた。「ワイロよりハイロを」(賄賂より廃炉を)という秀逸なスローガンが印象に残った。