第二十二回(2020/4) 更新料ゼロの秘密

 関西生活も2年が過ぎようとしている。住処の賃貸マンションが、契約更新の時期になった。そこで、どのような手続きや負担が必要か、事業者に電話で問い合わせた。その電話口からは、予想もしなかった意外な回答が返って来た・・・

 更新料は法に規定がなく、契約自由の原則が適用される。関東では古い慣習だ。諸説あるが、戦中戦後の物価統制期に、家賃を上げられないため更新料で一時収入を確保したともいう。最高裁は2011年に「更新料は、一般に、家賃の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する」ので合憲だと判示した。

 契約を更新する場合には、毎月の家賃とは別に一定額を貸主に払う。その額は通常、契約書に明記する。入居すれば「更新料について合意がある」とみなされる。相場は多様だが、東京と千葉では2年ごとに新家賃の1ヶ月分が普通だ。神奈川では1ヶ月分か半月分、埼玉と愛知では半月分が多いという。

 国土交通省が『民間賃貸住宅に係る実態調査』(2007年)をまとめた。更新料の設定は、全国総計で約100万件と推計される。都道府県別で見た徴収の割合は、神奈川がもっとも高くて90.1%、千葉が82.9%、東京が65.0%、埼玉が61.6%、京都が55.1%、愛知が40.6%、沖縄が40.4%だった。

 大阪と兵庫ではほぼ更新料を徴収しない。代わりに「敷引き」という独特の償却方法が、兵庫で96.0%、大阪で29.9%あった。これも商慣習で、預けた敷金の一部を返さない特約だ。滞納した家賃や退去時の部屋の原状回復費用として、契約時に敷金(保証金)から差し引かれる。家賃の1.6カ月分くらいで、礼金と同様に戻らない。

 ちなみに京都では55.1%が更新料を取り、1年ごとに1ヶ月分か、2年ごとに2ヶ月分が多い。1年ごとに2ヶ月分という強気の契約さえある。敷引きも広く行われる。中心市街地が狭いうえに、古都保存のために様々な開発規制や建物の高さ制限がかかる。自由に賃貸住宅を建てられない京都特有の事情が背景にあるようだ。

 さて、冒頭の電話はどんな回答だったのか。担当者いわく。この契約は自動更新なので新たな書類などは不要で、更新料も発生しない。これには驚いた。おかげでわたしはもう一年、マンションのこの部屋で、絶品の夕景(写真)に癒されながら暮らせることになった。