第二十四回(2020/6) チューペットは隠れたソウルフード

 関西はソウルフード満載の地だが、なかに隠れた珍品もある。チューペット(写真)という不思議なお菓子だ。ポリエチレン製の筒(チューブ)に、多彩な色の清涼飲料水を詰めたものである。これが先日、ゼミの打ち上げの〆として出て来たとき、学生たちは思わず歓声を上げた。わたしは当時これを知らなかったので、ちょっとしたカルチャーショックを感じた。

 素材としてのポリエチレンは、1950年代の後半から徐々に食品の器に認められた。60年代以降、それに飲料を詰めたチューブ入りのポリドリンクが登場する。そして大阪市港区に本社のある前田産業が、75年にチューペットを発売した。当初は棒状容器の端を噛み切って甘い液体を吸っていた。しだいに筒ごと凍結して、中央部のくびれを二つに折って食べ始める。ポッキンアイスなどとも呼ばれヒット商品になった。

 一説にはこの時期、清涼飲料水に物品税が賦課されるという噂が流れた。そのため駄菓子屋は凍らせてアイスキャンディーとして売ったという。新税の導入は見送られたが、凍結して食べる手法は広く全国に普及した。ただし折って食べるのは、前田産業の企画ではない。同社は、氷菓ではなく清涼飲料水として販売し続けていた。

 ところが2009年5月、事態は暗転する。チューペットにカビが混入する事件が起こったのだ。自主回収して原因を調査したところ、弱い毒性のカビが2種類見つかった。チューペットはまず原液を115℃で殺菌してから、筒に詰めてさらに85℃殺菌を行っていた。カビはそれでは死ななかったようだ。ポリエチレン容器は高温処理が難しく、再発を防止すべき工場の改修費用も過大と見込まれた。同年9月、前田産業はやむなく再開を断念し、ウェブサイトで生産の中止を告げた。

 しかしチューペットの人気は根強い。今でも他のメーカー10社あまりが、類似品を製造・販売しているという。こうしてゼミの打ち上げの〆にも使われ、歓声で迎えられるような隠れたソウルフードになっている。