第二十六回(2020/08) 大阪名物グルメ — チーズケーキと豚まん(1)

 コロナ禍で大和大学は、オンラインによる遠隔授業が基本になった。教員の業務が「5倍増」ともいうが、学生への教育効果はもどかしい。おまけに出校する回数が減って、関西にはご無沙汰気味だ。そんな往復途中の新大阪には、必ずチェックを入れる土産物屋がふたつ並んでいる。チーズケーキのリクローおじさんと、豚まんの551蓬莱(ほうらい)である。どちらも常に行列で、大阪名物グルメの双璧だろう。

 リクロー株式会社の前身は1956年創設の千鳥屋だ。淡路島出身の西村陸郎が創業した。もとは和菓子職人で、「作りたてを提供したい」との思いがあった。チーズが苦手な陸郎を虜にしたのはデンマーク製のクリームチーズだった。それに卵や牛乳などの素材を吟味し、ミキサーで撹拌し生地を作る。型に型紙を敷き、鍋ブタの周囲にレーズンを並べる。オーブンに入れて約45分。焼きたては揺れるほどふわふわで滑らかな食感だ。

 店頭で焼き上がりを告げる鐘を鳴らし、焼印のキャラクターを押すのがリクロー流である。食べ方の標準は、出来たてを9分割することだ。これを「りくろーカット」ともいう(写真)。この方法だと真ん中のパートには、底部の周囲に置かれたレーズンが存在しないことになってしまう。しかしそのかわりに、おじさんの顔の焼き印が最後までそのまま残るので、マニアには大変に満足度の高い食べ方だという。この新発想のカット法はチーズケーキの箱に書かれている。

 「ケーキは冷たいもの」とされてきた。しかし陸郎は和菓子の発想で、焼きたてを提供し仕上げに目の前で焼印を押した。手ごろな価格におさえ人気店になった。1984年に社運をかけた発売からすでに30余年になる。味の種類を増やさず、品質を保つために大阪市内に10店舗を直営し関西のみで展開する。「変わらぬ製法を守るチーズケーキは定番の1種のみ。食べ飽きない味のスタンダードを目指します」と同社企画部。(次回に続く)